特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向EU復興基金が脱炭素化の起爆剤に(スペイン)

2021年8月30日

新型コロナウイルス感染拡大からの復興・成長戦略として、スペインで気候中立への取り組みが加速している。グリーン化政策の法的枠組みとして、気候変動法が2021年5月に成立。7月にはEU理事会(閣僚理事会)により復興計画が承認された。いよいよ、復興基金を活用したさまざまな脱炭素化プロジェクトが始動することになる。太陽・風力エネルギーに恵まれるスペインの再生可能エネルギー(以下、再エネ)発電動向について解説する。

気候中立化の取り組みに法的拘束力

スペイン政府は2020年11月、2050年までの気候中立達成(パリ協定下のEUの目標)を目指し、「脱炭素化長期戦略2050」を発表。2050年までに、(1)温室効果ガス(GHG)排出量を1990年比で90%削減(吸収源で吸収できる量のGHGしか排出しない)、(2)「排出部門の50%を電化」「再エネ発電設備250ギガワット(GW)の新規導入」などを通じて、最終エネルギー消費に占める再エネ比率を2020年の20%から97%に拡大、(3)エネルギー効率化や行動変容、循環型経済を通じて一次エネルギー消費の約50%を削減する、などの長期的な絵姿を示した。

2021年3月には、今後10年の中間目標として「国別エネルギー・気候計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(PNIEC)2021-2030」(注1)を採択。このPNIECでは、セクター別目標などの具体的な道筋を定め、2,400億ユーロ規模の投資動員、25万~35万人の新規雇用創出、年間200億ユーロ前後の経済効果を見込む。国内の失業率の高さを考慮し、エネルギー移行に伴う労働市場へのリスクを抑制し、人材・技能育成を通じて新たな雇用機会へとつなげることを特に重視している。

2021年5月に施行された「気候変動・エネルギー移行法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」では、上述の計画に基づいて気候中立を確実に達成すべく、2030年までに(1)GHG排出量の23%削減(1990年比)、(2)最終エネルギー消費に占める再エネ比率42%、(3)発電電力量に占める再エネ比率の44%から74%への引き上げ、(4)一次エネルギー消費の39.5%削減の達成、を拘束力のある最低目標として法制化した。このうち、GHG削減目標の23%はEU全体の2030年目標の55%と比べると低い。これには、スペインは排出ピークが2005年ごろだったという事情がある。その時点と比べると49%の削減となる。

これらの最低目標は、2023年に上方修正を検討することが規定されている。また、気候変動・エネルギー移行政策のガバナンスの枠組みとして、専門家委員会による下院への報告義務や自治州との調整体制、市民社会の参画機会を設ける。このほか、将来的に大企業にカーボンフットプリントの公表や排出削減計画の策定も義務付けられた。

EU復興基金でグリーン成長戦略を推進

2030年までのPNIECでは、今後10年間に総額2,400億ユーロのグリーン投資を目標としている。主な部門別内訳は、電力(53%)、運輸(23%)、建築物(18%)、工業(3%)だ。官民割合は、2割が公的資金、8割が民間資金となる。この公的資金の原資となるのがEU復興基金(次世代のEU)だ。

スペインは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大きな打撃を受けた。経済の回復と成長のため、総額7,500億ユーロ(注2)に上るEUの復興基金から、補助金と融資を含めて最大1,400億ユーロの割り当てを2026年まで受ける予定だ。

その約9割を占める「復興レジリエンス・ファシリティー(RFF)」の予算を使用するための手続きとして、スペイン政府は2020年10月、復興レジリエンス計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.69MB)(以下、復興計画)を欧州委員会に提出(2020年10月14日付ビジネス短信参照)。その後、2021年6月に欧州委による審査が完了し、7月にEU理事会によって正式承認された(2021年7月15日付ビジネス短信参照)。これにより、返済不要の補助金として約695億ユーロ(現行価格)を2021~2023年にかけて受け取る見込みがついた。

復興計画のうち、グリーン投資は40%と最大部分を占める。脱炭素化に関わる主要投資分野としては、(1)建築物の省エネ改修(68億ユーロ)、(2)モビリティーの電動化(65億ユーロ)、(3)再エネの技術革新と産業・建築物への再エネ導入(32億ユーロ)、(4)エネルギー貯蔵と電力系統のデジタル化(14億ユーロ)、(5)グリーン水素の製造と運輸・産業部門での活用(16億ユーロ)、などがある(注3)。公的資金の投下先は、電動化や省エネ対応が遅れている分野へのテコ入れや、新技術の実用化、新産業エコシステムの構築支援が中心となっている。

2030年までの排出削減の約4割担う再エネ発電

スペインの2020年におけるGHG排出量の部門別内訳(表1参照)をみると、運輸が二酸化炭素(CO2)換算で8,700万トンと全体の約3割近くを占める。次いで、工業、発電、農業、建築物の順に大きい。PNIECによると、2030年までの目標の排出削減量の37%が発電部門によって、28%が運輸部門で占められる。それぞれ「再エネの利用拡大」と「モビリティーの電動化」というかたちでエネルギー移行における重点政策を担っている。

表1:部門別の温室効果ガス排出推移と2030年、2050年目標(単位:100万トンCO2換算)(△はマイナス値)
部門 1990年 2005年 2020年 2030年 2050年
実績 実績 実績 目標 1990年比(%) 目標 1990年比(%)
全体 288 439 319 222 △ 23 29 △ 90
階層レベル2の項目運輸 59 102 87 60 2 2 △ 97
階層レベル2の項目工業 87 115 72 62 △ 29 7 △ 92
階層レベル2の項目発電 66 113 57 21 △ 68 0 △ 100
階層レベル2の項目農業 44 50 48 40 △ 9 19 △ 57
階層レベル2の項目建築物 18 31 28 19 6 0 △ 100
階層レベル2の項目その他 14 28 27 20 43 1 △ 93

注:太字は気候変動・エネルギー移行法に定められた拘束力のある目標。
出所:「脱炭素化長期戦略2050」を基に作成

発電部門では、再エネ発電の導入促進を通じて2005~2020年に排出量が半減した。今後の大量導入によって、2030年までに2020年比でさらに6割削減を目指している。中期的な脱炭素化のカギを握ると言えるだろう。現在、スペインの再エネ発電設備は61GWと、既に総発電設備容量(112GW)の半分超を占める。それを今後10年間でさらに倍増し、8割近く(161GWのうち126GW)まで引き上げる。電力コスト抑制の観点から、中期的な導入拡大を牽引するのは、太陽光(2020年比で2030年までに30GW増)と風力(同22GW増)となる(表2参照)。このいずれも、近年発電コストが大幅に下がった電源だ。

他方、天候に左右されやすい再エネ電力を安定的かつ安価に供給するため、再エネ発電のピーク調整に特化した純揚水発電や蓄電設備を6GW増やす。そのほか、需要地に近い小型の分散型発電や自家発電などで需給調整する。従来型の発電では、石炭火力発電は排出削減の観点からだけでなく、CO2排出量の取引価格上昇による採算性低下により、2030年までに完全に閉鎖される可能性が高いとされる。原子力発電所は40~50年間の耐用年数を迎え、2027~2035年にかけて順次閉鎖される計画だ。当面は既存のガスタービン・コンバインドサイクル発電(GTCC)が重要な調整役となる。

表2:2030年の再エネ発電設備導入目標 〔単位:メガワット (MW)〕(△はマイナス値)
項目 2020年 2030年 増減
再エネ発電関連技術 60,974 125,520 64,546
階層レベル2の項目風力 28,033 50,333 22,300
階層レベル2の項目太陽光 9,071 39,181 30,110
階層レベル2の項目水力 14,109 14,609 500
階層レベル2の項目太陽熱 2,303 7,303 5,000
階層レベル2の項目純揚水 3,337 6,837 3,500
階層レベル2の項目混合揚水 2,687 2,687 0
階層レベル2の項目蓄電 0 2,500 2,500
階層レベル2の項目バイオマス 613 1,408 795
階層レベル2の項目廃棄物 610 341 △ 269
階層レベル2の項目バイオガス 211 241 30
階層レベル2の項目その他再エネ技術 0 80 80
ガスタービン
コンバインドサイクル(GTCC)
26,612 26,612 0
コジェネ 5,239 3,670 △ 1,569
原子力 7,339 3,181 △ 4,158
石油ガス 3,708 1,854 △ 1,854
石炭火力 7,897 0 △ 7,897
総設備容量(合計) 111,829 160,837 49,008

再エネ発電のビジネスモデルは既に脱補助金化

スペインは2010年代、手厚い再エネ電力の固定価格買い取り制度(FIT)によって世界で三指に入る再エネ大国になった。その反面、あまりにも急速な導入により電力コストが急騰。2013年の制度変更でFITが遡及(そきゅう)的に廃止されたため、多くの事業者が投資を回収できず、2014~2018年には再エネ発電の導入がゼロと投資が冷え込んだ。

一方で、この間に太陽光や風力発電のコストは大幅に低下。EUが「欧州グリーン・ディール」を掲げ、スペインも再エネ導入拡大へと再びかじを切る中で、再エネ投資は再び活発化してきた。ここ2~3年で増加しているビジネスモデルは電力購入契約(PPA)だ。環境・社会・ガバナンス(ESG)経営の一環として排出削減にコミットする大企業など、特定の需要家に中長期的に相対契約で再エネ電力を供給する。

ブルームバーグNEFによると、スペインの太陽光発電のPPA電力価格は2020年時点で1メガワット時(MWh)当たり35.30ユーロと欧州で最も低い。排出量取引価格の高騰で足元30~80ユーロで急変動を続ける卸電力価格と比べると、安価かつ安定した価格で電力を調達できる。2020年に発表されたスペイン各社のPPA契約は合計4.2GWに上った。また、2021年3月に石油大手レプソルがマイクロソフトの欧州事業向け再エネ電力の供給契約を結ぶなど、欧州地域全体で必要な再エネ電力を全てスペインから(帳簿上)調達する、国境を越えたバーチャルPPA契約(注4)の事例も増えている。

また、プレーヤーも多様化した。従来の大手電力や再エネ事業者に加え、脱炭素化への移行に生き残りを賭ける石油ガス事業者や、国外の再エネ事業者やファンドからも、多額の投資が流入している(表3参照)。

表3:2020年以降の主な再エネ投資案件
買収側
企業名
買収側
買収側
業種
被買収側(事業) 年月
オリックス 日本 総合リース 欧州・米州で展開する再エネ事業会社エラワン・エナジー(前身はゲスタンプ)の株式80%取得で合意。報道によると、買収額は増資分も含め約1,000億円(7.9億ユーロ)。開発予定のプロジェクトも含めると10GW超の再エネ資産。 2020年12月
ガルプ ポルトガル エネルギー
(石油ガス)
インフラ大手ACSの太陽光プラント事業(2,9GW)の75.01%を買収。開発予定のポートフォリオを考慮すると企業価値は22億ユーロ。 2020年9月
トタル フランス エネルギー
(石油ガス)
(1)地場開発2社から、太陽光発電プロジェクト(合計2GW)を買収。(2)地場開発イグニスから太陽光発電プロジェクト(合計3.3GW)を買収。両案件の開発で33億ユーロを投資予定。 2020年2月
2020年9月
ハンファ
Qセルズ
韓国・
ドイツ
太陽電池製造 地場開発RICエナジーから、太陽光発電プロジェクトを2回にわたり(約1GW+約0.5GW)を買収。開発費用などを含めると10億ユーロ超え。 2020年2月
2020年11月
CIP デンマーク 年金基金 フォレスタリアから、風力発電資産(374MW)を3.5億ユーロで買収。1GWプロジェクトを取得。11月には同社と1GWの新規プロジェクト共同開発を発表。 2020年9月
2020年11月
中国長江
三峡集団
中国 国有電力 エクセリオ(X-Elio)から、太陽光発電資産(500MW)を買収(5億ユーロ)。また、2021年に入り、風力発電資産(400MW)も取得(4億ユーロ)。 2020年8月
2020年11月
レプソル スペイン エネルギー
(石油ガス)
地場開発フォレスタリアから、風力発電プロジェクト(860MW)を買収。企業価値は10億ユーロとみられる。同買収により、レプソルの国内再エネ発電プロジェクトは約2GWに。 2020年2月

出所:各社発表、各種報道

2020年から新たな再エネ発電入札方式に移行

2020年11月には、新規の再エネ発電設備を対象とした新たな「再エネ報酬制度(REER)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が制定された。過去に再エネバブルを引き起こした教訓を踏まえ、応札価格の低い発電事業者から順に採用する「Pay-as-Bid」方式が導入された。採用された事業者は優先的に系統接続や建設・環境認可を受けることができ、また10~15年間にわたり卸電力市場で落札価格にスポット価格を一部加味した価格で電力を販売できる。その結果、市場価格の急変動の影響を受けにくいことになる。また、投資の見通しも立てやすく、プロジェクト資金調達を受けやすいという利点がある。需要過多で卸電力価格がマイナスとなった時間帯は、制度適用外となってマイナス価格が適用されるなど、発電事業者に自律的に需給調整を促す設計にもなっている。

また、同制度では、耐用年数を迎える既存施設の拡張・変更や、異なる再エネ発電技術を組み合わせるハイブリッド発電や蓄電設備導入(実証を含む)、集合住宅の自家発電のような小規模なプロジェクトにも門戸が開かれている。今後は洋上風力発電の入札も始まる。

2021年1月には新制度下での初回入札結果が公表され、太陽光と陸上風力発電の合計3GWの落札事業者が決定した。初回入札の落札価格は1MWh当たり平均25ユーロ前後。大部分は電力大手や独立発電事業者が占め、12~15年間にわたり電力価格が保証される。今後5年間で約20GWの入札が予定されている。

再エネ発電市場に過当競争の懸念も

スペインでは、今後の再エネ導入拡大を見込んで系統接続許可を受けた未稼働の新規再エネ発電案件が、2021年6月末時点で既に合計147GWに及ぶ。つまり、2030年までの新規再エネ導入目標(約60GW)の2.5倍近くに上る計算だ。今後の電気自動車やグリーン水素の普及などによる需要拡大を考慮しても、明らかな供給過多状態で、熾烈(しれつ)な価格競争が起こっている。政府による大規模な競争入札は過剰供給を淘汰(とうた)し、PPA市場や卸電力市場の過当競争を解消し、中長期的に適正な電力価格へと収束させる効果があると期待されている。


注1:
PNIECは、スペイン語でPlan Nacional Integrado de Energía y Clima。
注2:
「7,500億ユーロ」は、予算策定時の2018年を基準とした価格。現行価格では8,069億ユーロに相当する。
注3:
これらの予算項目には、厳密にはグリーン化投資以外の項目が含まれているものもある。
注4:
バーチャルPPAとは、需要家(企業)が直接、再エネ発電事業者と中長期契約を結び、実際の電力売買とは切り離したかたちで再エネ属性(環境価値)を直接移転する仕組み。
執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。

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