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特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く新型コロナ禍で変化を迫られるタイ・エネルギー企業、新たな模索も(後編)

2021年5月11日

新型コロナウイルス禍によってエネルギー市場が大きく変化する中、タイのエネルギー産業の対応を報告する本レポート。新型コロナ禍による需要減に対応して、タイのエネルギー企業は新規事業の取り組みを進める。そうした中、政府もBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済政策を国家戦略として打ち出し、エネルギー企業の事業展開を支援している。前編では、その状況をみた。

後編では、新型コロナ禍における、タイのエネルギー企業のより具体的な取り組みと、BCG経済政策に対する企業の評価について、企業へのインタビューを通じて報告する。

クリーンエネルギー事業へ注力する石炭エネルギー企業A社

タイの地場有力エネルギー企業で石炭を主力とするA社は、新型コロナによる需要の減少を受けて、病院向けの電気自動車(EV)のライドシェアサービスなどのクリーンエネルギー事業を強化している(前編参照)。同社は、さらに、クリーンエネルギー技術を専門とする新会社を設立。エネルギー貯蔵システムを提供し、エネルギーの効率的な管理・使用を促進するスマートシティ・プロジェクトを立ち上げ、EVビジネスやその他のエネルギーソリューションを支援する。例えば、チョンブリ県のあるインターナショナルスクールで実証実験し、その地区内におけるエネルギーを供給する計画だ。本計画が軌道に乗れば、他の地域にも同様のプロジェクトを拡大させる。

今後の事業展開としては、石炭事業の収益割合(現在約70%)を低下させ、クリーンエネルギーなどの新事業の収益割合を高めていくとした。具体的には、2025年までに40%にまで石炭の収益割合を低下させ、電気事業など今後さらなる成長が見込まれる事業に対する投資を実行する。電気エネルギー技術からの収益は30%に、天然ガス事業からの収益は20%に、それぞれ増加する見込みだ。さらには、再生可能エネルギーからの収益も10%程度まで高めるなど、新たなビジネスモデルを模索する。

ジェトロは、A社のグループ会社で資源開発事業などを担うB社にヒアリングを実施。A社の事業戦略について、現場での状況を聞いた(2021年2月18日)。

グループの一員として脱石炭に注力

質問:
事業概況と、新型コロナ感染拡大の影響は。
答え:
石炭・鉱物中心の資源企業。火力発電用およびコークス用の石炭などを生産している。オープンピット工法および地下での石炭採掘や石炭発電を専門とする。タイ、ラオス、インドネシア、中国、オーストラリア、モンゴルに拠点を構える。近年は電力事業、シェールガス事業などへも参入。化石燃料のみならず、太陽光などの再生可能エネルギー事業の拡大も図っている。
新型コロナの影響は非常に大きかった。当社も、(コロナ禍以前から)エネルギー事業を営むにあたり、環境に配慮する必要があると考えていた。しかし、その変化・スピードはコロナを経験することによって加速した。また、各国の新型コロナ感染拡大防止措置により、エネルギーの消費量が大幅に減少した。新しいライフスタイルが生まれ、新しい技術開発が加速した。従来型ビジネスは変化を求められている。
質問:
今後の展望は。
答え:
従来型のビジネスから、新事業のビジネスへとシフトを急いでいる。具体的には、EVや再生可能エネルギーだ。
今後の事業展開にあたっては、石炭エネルギーでの収益比率を下げる。石炭以外の鉱物、例えば、リチウムやニッケルなど、石炭以外の化石燃料に焦点をあて、自社の採掘技術を応用しつつ事業を展開していく。

政府の目指す方向性を見極め、BCG経済に沿った事業展開へ

質問:
政府が推進するBCG経済政策について
答え:
政府が提唱したBCG経済のコンセプトは無論、承知している。新ビジネスの潮流が生まれることや新たな変化が生まれることなどに期待したい。BCG経済の理念は、4年前に策定した当社の経営方針と合致する。本趣旨に沿った事業を展開していきたい。
他方で、政府が長期的に何を達成したいのかを正確に理解する必要性を感じる。政府が提唱するBCG経済の理論を実行するためには、各企業で相当の準備が必要だからだ。また、補助金など、政府からの支援もいただけるとありがたい。
質問:
日系企業との協業について
答え:
当社は既に、日系企業と良好な関係を築いている。これまでも日系の商社や重工メーカーと発電所事業などを行ってきた。これらの経験からも、日系企業との協業は歓迎するところだ。現在、日本のベンチャー企業とEVに関する事業に取り組んでいる。今後、生産を拡大するなど、両社の関係を強化しつつ事業展開する。

大手製糖企業が医療用エタノールへの早期参入を目指す

続いて、タイの大手製糖企業でバイオエタノール事業も手掛けるC社は、自動車用バイオエタノールの需要の減少に直面。新たなビジネスとして、医療用エタノールへの早期参入を目指している(前編参照)。C社の新規ビジネスを含めた事業の現状と、今後の展開およびBCG経済政策に対する評価について聞いた(2021年2月24日)。

質問:
事業内容について。
答え:
当社の基幹事業は砂糖の製造だ。タイ国内にいくつもの工場を保有し生産活動を展開。砂糖の生産量は世界でも上位に位置する。もっとも、砂糖の製造だけではない。砂糖の原料であるサトウキビを生産する3万人以上の農家と契約し、安定した供給網を構築していることが当社の強みだ。加えて、サトウキビの生産性向上、灌漑システムの構築、品質改良など、サトウキビ農家へのトータルサポートも実施している。
そのなかで、当社は再生エネルギー事業を担っている。バガス(サトウキビの残留物)を使用してのバイオマス事業を展開し、砂糖を使用してバイオエタノールを製造する。再生エネルギーは、サトウキビやキャッサバなど、タイで多く生産される植物から製造することが可能だ。そのため、同事業の拡大は、タイにおける農家の生活の質を向上させる。あわせて、輸入原油への依存を減らすことができる有益な事業だ。
質問:
新型コロナの感染拡大は、ビジネスにどのような影響を与えたか。
答え:
タイ政府は、ロックダウン措置はじめとする様々な感染拡大防止措置を講じた。その影響で、人々の行動は大きく制限された。無論、車での移動も制限され、車の混合燃料の原料となるエタノール需要が劇的に減少した。需要減少のピークは2020年3月から5月ごろで、平時との比較ではマイナス30%程度にまで落ち込んだ。収益に与える影響は小さくなく、新型コロナの影響に驚愕(きょうがく)した。とは言え、新型コロナの感染拡大が我々に新たなビジネスの機会を与えてくれた。
質問:
新たなビジネスの機会とは具体的に何か。
答え:
医療・医薬品事業への参入だ。燃料用エタノールの需要減少を補うべく、消毒などで使用する医療用のエタノールを生産できないか、消毒用エタノールを中心とした医薬品を新規事業に据えることができないか、新たなビジネスの開拓を進めている。
質問:
今後の展望は。
答え:
そもそも、新型コロナの感染拡大以前から、健康志向の高まりなどにより、砂糖に対する消費者の目は厳しくなっていた。そういった状況のなか、砂糖に代わる何らかの事業育成に向け、社内での機運の高まりがあった。エタノールの製造は砂糖との差別化をはかるうえで、大きな一歩と個人的に感じている。エタノールの他にも、バイオプラスチックや動物用の飼料などにバガスが転用できないかなど、研究を進めている。もっとも現時点では、コスト面で折り合いがつかないため事業化には時間を要する。だとしても、時代の変化には柔軟に対応する必要がある。
先に述べた、医薬品エタノールの開発は急ピッチで進めている。世界が消毒用のエタノールを求めており、当社もその要求に応えたい。以前は、エタノールからバイオジェットの燃料を得るべく、研究開発などを進めていた。しかし、当面はこのプロジェクトを中断する方針だ。
世界の状況や需要に鑑み、柔軟にビジネスモデルを変更できることが当社の強みだ。いかなる状況でも、それは変わらない。

バイオ燃料には市場実態を踏まえた対応を

質問:
タイ政府が国家戦略としてBCG経済政策を打ち出した。貴社の事業方針とタイ政府の政策の方向性は一致しているか。
答え:
当社の役員は、首相が所管するBCG経済委員会に何度も出席している。このように、BCG経済政策に対する関心は高い。BCGは、タイにとって大きな経済政策で、推進力がある。当社もバイオエネルギーなどの事業でBCG経済と深く関わっており、政府の方針に当社の事業の方向性は合致している。
他方、バイオの分野でタイは、諸外国と比較して競争力(生産力)が劣る。タイでは、諸外国でみられるいわゆる大規模農場経営が発達していない。タイの砂糖農家は1家族あたり約5~10ヘクタール程度の土地しか所有していない。非常に小規模なのだ。その結果、米国やブラジルなどで進む近代的・大規模な農業経営と比較して、価格競争力で劣ってしまう。当社としても、事業としてコスト面で見合わなければ、さらなる事業拡大は難しいだろう。また、仮に事業を拡大させようとした場合でも、BCG経済を所管している省庁は多岐にわたる。それぞれの省庁の足並みがそろうのを待って事業を進めなければならず、事業展開が想定よりも遅れてしまうことも懸念材料だ。
さらに、エタノール燃料ついても述べたい。2021年2月現在の市場価格は、ガソリンが1リットルあたり15バーツ(約52.5円、1バーツ=約3.5円)なのに対し、バイオ燃料だと1リットルあたり25バーツの費用がかかる。バイオ燃料の価格がガソリンと比べて高いことも、バイオ燃料が広く普及しない要因だ。政府はこのような現状の矛盾を解決する必要がある。
質問:
日系企業との協働についての可能性について。例えば、日系企業の製品を工場に導入しエンジニアを派遣するなど、何らかの協働体制を構築できないか。
答え:
正直なところ、当社は家族経営色が強い。また、エンジニアも含めて有能な人材を多数雇用している。そのため、たとえ自社の工場を拡張するといった場合においても、外部のエンジニアなどに業務を委託する可能性は低い。
他方、中国やオーストラリア、インドなどから購入している一般的な機械であれば、日本製に切り替える可能性は十分にある。先に述べたバイオジェット燃料の研究については、日本の商社と協力し、かつ、良好な協力関係を築いた。今後も、この関係性は継続させたい。
仮に、日本がサトウキビ原料などを何らかの製品にかえるなどの技術があるなら、当社と協働できる可能性は極めて高い。

タイのサトウキビ畑(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
岡本 泰(おかもと たい)
2019年から、ジェトロ・バンコク事務所勤務。

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