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特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く新型コロナ禍で変化を迫られるタイ・エネルギー企業、新たな模索も(前編)

2021年5月11日

国際エネルギー機関によると、2020年のエネルギー需要は5%減少した。新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済が大きな影響を受けたためだ。感染拡大が長期化した場合、世界のエネルギー需要が感染拡大前の水準に回復するのは2025年になるという。また、エネルギー需要の減少によって、世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量は前年から約7%減少した(国際エネルギー機関「World Energy Outlook 2020」)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この現象は、コロナ禍による都市封鎖などに起因する一時的な環境改善と考えられている。一方で、人間の暮らしや経済活動が自然環境に大きな影響を与えていることを実感する機会になった。新型コロナ禍を経て、より環境に配慮した太陽光発電や風力発電など、いわゆるクリーンエネルギーの重要性が増す可能性がある。

本レポートでは、新型コロナ禍によってエネルギー市場が世界的に大きく変化する中、タイのエネルギー産業がどのように対応しようとしているのかについてみる。タイ政府が新型コロナ禍で打ち出した新たな産業政策の動きも踏まえ、2回に分けて報告する。まず前編として、新型コロナ禍のタイのエネルギー産業への影響とそれに対する企業および政府の取り組みを概観する。

新型コロナ禍による需要減で事業変革を進めるタイのエネルギー企業

タイは、新型コロナの感染封じ込めに比較的成功した。ただし、一時期は厳しい経済・社会の制限措置が実施されていた。タイ・エネルギー省エネルギー政策計画事務局によると、タイの2020年のエネルギー需要は前年比で4.6%減少した(原油換算)。この結果、タイの2020年におけるエネルギー起源のCO2排出量は、前年比10%減の2億2,433万トンだった。輸送部門から出るCO2の95%は陸上輸送だ。新型コロナ禍でオフィス出社から在宅勤務へと変化したことで、陸上輸送のエネルギー消費が減った。新型コロナ禍で人々の行動様式が変わり、その結果、エネルギー需要が減少し、CO2の排出量が減った。このことは、タイ政府や企業が気候変動などの環境分野への関心を高める1つの契機となった。

新型コロナ禍による需要の減少に直面し、タイのエネルギー各社とも、苦戦を強いられている。例えば、業界最大手の国営タイ石油公社の決算は、売上高で前年比27%減、純利益で59%減になった。こうした中、エネルギー企業は、市場環境の大きな変化を認識し、新たな市場分野を開拓することで生き残りを図っている。タイの地場有力エネルギー企業、A社もその1社だ。創業40年の老舗企業で、石炭採掘や石炭発電が主事業という同社にとっても、新型コロナの影響は甚大。運用コストの削減、事業内容の見直しなど、従来型ビジネスからの転換を迫られた。一方で、新業態であるクリーンエネルギー事業などは大きく伸長した(後編参照)。

同社のクリーンエネルギー事業とは、電気自動車(EV)だ。同社は、新型コロナウイルスが流行する中、病院の職員および患者に無償でEVのライドシェアサービスを提供した。医療従事者らに、安全な移動手段を提供するのを目的にする。携帯電話のアプリを介してEVを呼ぶことも可能で、利用者の医療スタッフからも好評だった。これを機に、同社は、2020年末までにEVの車両数を100台に増やすことを決定。さらに、2022年中に1,000台、2025年中に5,000台にまでEV車両を増やす。加えて、電動三輪自動車(トゥクトゥク)やタイ初の電動フェリーを開発し、販売するなど、クリーンエネルギー事業に今後も注力するとしている。

またC社は、タイの大手製糖企業。バガス(サトウキビの残留物)を使用したバイオマスや砂糖を使用したバイオエタノールを手掛ける。同社も、新型コロナ感染拡大によって、自動車の混合燃料の原料となるエタノールの需要の大きな減少に直面した。危機的な状況を打開すべく、世界的に需要が高まっている医療用エタノール事業の立ち上げに注力している(後編参照)。

タイ政府はBCG経済モデルでバイオ・再生可能エネルギーなどを推進

新型コロナの影響を大きく受けたエネルギー企業を、タイ政府は政策面でバックアップする。政府は、「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済モデル」を、2021~2026年の国家目標として取り組む方針を決定した。その狙いは、新型コロナ感染拡大で打撃を受けた経済の回復と環境対策を同時に進めるところにある。政府は今後、タイがもともと強みを持つ農業や食品産業を中心に、BCG経済モデルを推進する方針だ。バイオの分野では、バイオエネルギー、バイオマテリアル、バイオケミカルが重点分野になる。グリーンの分野では、再生可能エネルギーや燃料電池など、省エネ商品の使用を推進する(その他、BCG経済モデルの詳細は2021年4月28日付地域・分析レポート参照)。BCG経済モデルの推進は、化石燃料の使用を削減し、CO2排出量の削減に資する。

これに先立ち、タイ投資委員会(BOI)もBCG経済への投資を促すべく様々な恩典を設定し、投資を奨励している。具体的には、バイオエネルギー・バイオ燃料、バイオテクノロジーの研究開発(R&D)、再生可能エネルギーなどの分野の事業に対し、手厚い税制上の恩典などを付与している。

BOIによると、2020年の同分野における投資奨励事業の申請額は1,148億7,600万バーツ(約4,021億円、1バーツ=約3.5円)。前年同期比で17%増加した(BOI発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(100.59KB))。投資申請件数も前年の450件から494件へと同9.8%増加。この分野での企業の関心の高さがうかがえる。

本格的なBCG経済政策は、打ちだされたばかりだ。まだその方向性や内容に不明確な点も多い。しかし、総じてタイのエネルギー企業による期待は大きい。先述のC社は首相が所管するBCG経済委員会に出席し、政策に大きく関わっている。また、A社のグループ会社で資源開発事業などを担うB社は、「BCG経済モデルによって新ビジネスの潮流が生まれることや新たな変化が生まれることなどに期待したい」と注目する。

新型コロナ禍によって大きな影響を受けたタイのエネルギー産業。新たな事業への取り組みと、政府によるBCG経済政策との連携を図ることで、危機を乗り越えようとしている。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
岡本 泰(おかもと たい)
2019年から、ジェトロ・バンコク事務所勤務。

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