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新型コロナ禍の操業制限に左右されるマレーシアの自動車産業

2021年8月27日

2020年のマレーシアの自動車市場は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発令された移動制限令に大きく左右された。上半期は、自動車製造・販売ともに1カ月半ほど操業が停止した。下半期は、操業が再開したことに加え、自動車に課せられる売上税の減免措置が奏功し、販売・生産ともに回復傾向となった。産業界からの強い要望もあり、2021年12月末まで同措置が延長したことから、2021年も順調な滑り出しが期待されたが、新型コロナ感染の再拡大に伴い、1月と6月に移動制限令が再強化され、再び操業が困難となった。2021年の販売・生産は、2020年を割り込む可能性もあると懸念される。

操業停止を余儀なくされた自動車製造業

2020年の新車販売・生産台数の統計を見ていく前に、新型コロナウイルスの流行に伴い、マレーシア政府が発令した移動制限令に伴う、自動車分野の操業状況の変遷を振り返る(表1参照)。移動制限令は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のために導入した行動制限や操業制限を伴う措置で、感染状況に応じて、制限内容の強化と緩和、対象地域の変更を繰り返しながら、2021年8月現在まで継続している。自動車と自動車部品製造業については、同措置の発令に伴い、2020年3月18日から全国的に操業不可となった。このうち、輸出用完成車と自動車部品については4月12日まで、国内用完成車については5月3日まで操業停止が続いた。5月4日以降は、移動制限令が緩和されたため操業が再開した。その後、10月以降に一部の州・連邦直轄地において管理部門の出勤率制限が導入されたものの、生産部門については標準作業手順書(SOP)を順守することを条件に、100%の出勤率で稼働が継続した。

表1:自動車と自動車部品製造業の操業可否の変遷(2021年7月まで)
自動車および自動車部品製造業の操業可否
2020年 3月18日~ 操業不可(全国)
4月13日~ 輸出用完成車、自動車部品のみ操業可(全国)
5月4月~ 操業可(全国)
6月 操業可(全国)
7月 操業可(全国)
8月 操業可(全国)
9月 操業可(全国)
10月20日~ 管理部門のみ出勤制限(一部州・連邦直轄地のみ)
11月 管理部門のみ出勤制限(一部州・連邦直轄地のみ)
12月 管理部門のみ出勤制限(一部州・連邦直轄地のみ)
2021年 1月13日~ 管理部門のみ出勤制限(全国)
※ただし、1月13日からの全国的な移動制限令の再発令により、自動車と自動車部品製造が操業可能リストから除外。
1月15日よりリストに掲載され、操業可に。
実質、各メーカーにおいて数日の操業停止。
2月 管理部門のみ出勤制限(全国)
3月 管理部門のみ出勤制限(全国)
4月 管理部門のみ出勤制限(全国)
5月25日~ 全体の60%までの出勤制限(全国)
6月1日~ 全体の10%までの出勤制限で暖機運転モードのみ(生産不可)(全国)
※全国で「国家回復計画」第1段階を開始。
以下、地域ごとに緩和・強化。
7月3日~16日
  • 操業不可(首都圏及び一部地域)
    ※「強化された移動制限令」発令(制限強化)
  • 10%までの出勤制限、暖機運転モードのみ(生産不可)(それ以外の地域)
    ※「国家回復計画」第1段階を継続。
7月5日/7日/10日/14日~ 全体の80%までの出勤制限(クランタン州、パハン州、ペラ州、ペルリス州、トレンガヌ州、ペナン州、サバ州、サラワク州のみ)
※この期間中に「国家回復計画」 第2段階に移行(制限緩和)
7月17日~ 全体の10%までの出勤制限で、暖機運転モードのみ(生産不可)
(セランゴール州、ジョホール州、ネグリ・センビラン州、マラッカ州、ケダ州、3連邦直轄地のみ)
※「国家回復計画」第1段階を継続。

注:太字は、自動車と自動車部品製造業が全面的に操業不可となった時期と地域。
出所:政府発表からジェトロ作成

2021年に入ってからは、感染者が再び増加傾向となり、1月13日に全国的な移動制限令が再発令となった。製造業はほぼすべての分野で操業可能とされたが、自動車と自動車部品製造業は操業可能リストに含まれなかった。そのため、マレーシア自動車連盟(MAA)および各メーカーなど自動車業界、マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)、JETROからの嘆願が実施された。結果的に、自動車分野が操業可能リストに追加されたが、各メーカーでは数日間の操業停止を余儀なくされた。その後、一時的に感染状況が落ち着いたことから、生産部門については原則100%の出勤率で稼働となっていたが、再度感染者数が急増し、6月1日以降、操業制限が厳格化された(2021年6月2日付ビジネス短信参照)。同措置により、自動車関連製造業は10%の出勤率による「暖機運転モード」(機械・設備の維持のため操業)での稼働のみと、他の分野より厳しく制限され、実質、生産が不可能となった。ムヒディン・ヤシン首相は6月15日に、感染状況の改善に応じて4段階で操業制限などの緩和を行う「国家回復計画」を発表(2021年6月21日付ビジネス短信参照)し、6月1日からの措置を第1段階と位置付けた。しかしながら、特に感染の広がりが大きかったセランゴール州およびクアラルンプールにおいて、7月3日から16日は、最も厳しい行動制限を伴う操業規制として「強化された移動制限令」が導入され、再度、完全な操業停止となった(2021年7月2日付ビジネス短信参照)。

7月5日以降、国家回復計画の第2段階に移行する州が増加し、14日までにペナン州などを含む8州では制限が緩和された。これらの州では、自動車関連製造業は80%の出勤率での操業が許可されたが、首都圏を含む5州・3連邦直轄地では、8月現在まで依然として10%の暖機運転モードでの稼働が継続している。このうちセランゴール州には、多くの完成車メーカー、部品メーカーが集積しているため、自動車分野では、多数の企業で実質的に生産できない深刻な状況にある。なお、政府が操業規制を導入するにあたり、政府の指定する一時操業可能リストから自動車関連製造業を除いたことや、10%の出勤制限にしたことの理由は、明確に示されていない。多くの企業が非常に不安定な操業を強いられているのが現状だ。

2020年の販売は下半期に回復

続いて、2020年の自動車販売、生産の状況をみていく。2020年の新車販売台数は、前年比12.4%減の52万9,434台となった(表2参照)。内訳をみると、乗用車が12.6%減の48万965台、商用車が10.4%減の4万8,469台だった。新車販売台数を月別にみると、操業停止措置があった2020年3月から5月までは、自動車販売店も同様に操業不可であったため、前年同月比で大きく落ち込んだ(図1参照)。結果として、上半期は前年同期割れとなった。しかし、経済活動が正常化した2020年6月以降、政府が景気刺激のため、乗用車にかかる10%の売上税に対する減免措置を導入した。これにより、国内製造車は免税、輸入車は50%減税となる措置が発表された。同措置が後押しし、下半期については12月まで毎月、前年同月を上回る販売数を記録した。その結果、MAAが2020年12月に発表した目標台数である47万台の販売を達成した。

表2:マレーシアの新車販売台数の内訳(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年 2021年
通年
(台)
シェア
(%)
通年
(台)
シェア
(%)
前年比
(%)
上半期
(台)
シェア
(%)
前年
同期比
(%)
乗用車 550,177 91.0 480,965 90.8 △ 12.6 223,838 89.8 41.9
商用車 54,104 9.0 48,469 9.2 △ 10.4 25,291 10.2 59.7
国民車(乗用車+商用車) 342,780 56.7 330,087 62.3 △ 3.7 153,946 61.8 37.5
階層レベル2の項目プロトン 100,183 16.6 108,524 20.5 8.3 56,352 22.6 52.0
階層レベル2の項目プロドゥア 240,341 39.8 220,163 41.6 △ 8.4 97,290 39.1 31.2
国民車以外(乗用車+商用車) 261,501 43.3 199,347 37.7 △ 23.8 95,182 38.2 54.6
階層レベル2の項目ホンダ 85,418 14.1 60,468 11.4 △ 29.2 24,996 10.0 46.0
階層レベル2の項目トヨタ 70,009 11.6 59,320 11.2 △ 15.3 33,705 13.5 85.2
新車販売台数合計 604,281 100.0 529,434 100.0 △ 12.4 249,129 100.0 43.6

注1:プロトン、プロドゥア、ホンダは乗用車のみ。トヨタは、乗用車と商用車の合算(レクサスを含む)。
注2:シェアの母数は、新車販売台数合計。
出所:図1に同じ

図1:月別新車販売台数(2019年1月~2021年6月)
2019年は1月に約4万8,000台で、6月までに6万台超に増加した。その後9月まで4万から5万台で推移し、10月から12月は5万台超となった。2020年は1月から2月に約4万台だったが、3月に約半減し、4月にほぼゼロまで落ち込んだ。5月以降回復し、7月以降11月まで6万台近い水準となった。12月には6万台を上回った。2021年は、1月に約3万3,000台だったが、3月には6万5,000台近くまで上昇した。その後、減少に転じ、5月には4万台超、6月には2,000台程度まで落ち込んだ。

出所:マレーシア自動車連盟(MAA)

メーカー別にみると、第2国民車メーカーのプロドゥアは、前年比8.4%減の22万163台と前年割れしたが、41.6%と4割超のシェアを維持した(表2参照)。プロドゥアは、2020年1月に小型セダン「ベザ」の新モデルを発売した。

2019年末にブランド初となるスポーツ用多目的車(SUV)である「X70」を発売して以降、販売が好調な第1国民車メーカーのプロトンは、販売上位メーカー4社のうちで唯一、前年を上回り、2020年の販売台数が8.3%増の10万8,524台となった。このうち、SUVの販売台数は2万5,455台で、マレーシアで販売される全SUVの約3割を占め、トップになった。「X70」よりやや小型のSUVとして、2020年10月には新たに「X50」を発売し、こちらも好調な販売を続けている。

日系メーカーでは、ホンダが前年比29.2%減の6万468台となった。上半期の操業停止などを受け、前年比の落ち込みは3割程度と大きかったが、シェアは11.4%と、非国民車メーカーではトップを維持した。2020年10月に一番人気の小型セダン「シティ」、SUVの「CR-V」の新モデルを発表し、下半期は販売台数を大きく伸ばした。

トヨタは、前年比15.3%減の5万9,320台となり、シェアは11.2%だった。トヨタも、プロドゥアやホンダと同様、前年割れになったが、2020年6月から12月にかけて、小型SUVの「RAV4」「ヤリス」、ピックアップトラックの「ハイラックス」、小型セダンの「ヴィオス」の新モデルを発表している。

これらから、主要ないずれのメーカーも、2020年上半期は操業停止に苦しんだものの、下半期には政府の景気刺激策を追い風に持ち直した様子がうかがえる。

生産も販売と同様の傾向に

2020年の生産台数は、販売台数の減少に比例して、前年比15.1%減の48万5,186台となった。月別でも、販売台数と同様の傾向を示した。2020年3月から5月にかけては、操業停止の影響で大きく落ち込み、6月以降に回復した(図2参照)。政府の支援策により、国内製造車は売上税が免税となることも後押しし、6月以降は販売と同様に、ほぼ毎月、前年同月を上回る生産となった。

図2:月別新車生産台数(2019年1月~2021年6月)
019年は1月に約5万5,000台だったが、2月に約4万台まで減少、その後、5月まで約5万台の水準だった。6月に4万台を切ったが、7月に5万台近くに回復し、その後は12月まで4万から5万5,000台の水準だった。2020年1月から2月に約4万を越えたが、3月に約2万台となり、4月にほぼゼロまで落ち込んだ。5月に約1万台となった後、6月には4万台超の水準に急回復した。その後増加傾向となり、10月には5万5,000台を越えた。12月まで同水準を保った。2021年1月は約4万台だったが、3月には6万台超まで増加した。その後減少に転じ、5月に約4万台となった後、6月には再びほぼゼロ台まで落ち込んだ。

出所:図1に同じ

メーカー別の生産台数では、プロトンが前年比48.2%増の10万8,578台と好調だった(表3参照)。特に、2020年に35周年を迎えて新モデルを発売した小型セダン「サガ」が好調で、生産台数全体の約半数にあたる4万8,747台を占めた。

表3:マレーシアの生産台数の内訳(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年 2021年
通年
(台)
シェア
(%)
通年
(台)
シェア
(%)
前年比
(%)
上半期
(台)
シェア
(%)
前年
同期比
(%)
乗用車 534,115 93.4 457,755 94.3 △ 14.3 223,772 92.7 42.4
商用車 37,517 6.6 27,431 5.7 △ 26.9 17,516 7.3 97.6
国民車(乗用車+商用車) 319,142 55.8 329,691 68.0 3.3 154,252 63.9 35.5
階層レベル2の項目プロトン 73,280 12.8 108,578 22.4 48.2 55,308 22.9 47.4
階層レベル2の項目プロドゥア 244,448 42.8 220,968 45.5 △ 9.6 98,944 41.0 29.9
国民車以外(乗用車+商用車) 252,490 44.2 155,495 32.0 △ 38.4 87,036 36.1 66.9
階層レベル2の項目ホンダ 88,307 15.4 46,675 9.6 △ 47.1 28,327 11.7 235.3
階層レベル2の項目トヨタ 60,718 10.6 50,938 10.5 △ 16.1 28,390 11.8 66.1
新車生産台数合計 571,632 100.0 485,186 100.0 △ 15.1 241,288 100.0 45.3

注1:プロトン、プロドゥア、ホンダは乗用車のみ。トヨタは、乗用車と商用車の合算。
注2:シェアの母数は、生産台数合計。
出所:図1に同じ

2021年6月以降の操業制限が懸念材料

2021年上半期の販売台数は、前年同期比43.6%増の24万9,129台となったが、2020年3月から5月までの大幅な減少からの反動増だといえる。月別にみると、1月は前年同月比で減少したが、2月から5月にかけては前年同月を上回り、特に3月の販売台数は6万4,875台と上半期で最多を記録した(図1参照)。しかし、6月1日以降、自動車製造業に対する操業制限措置が再度導入されたため、同月の販売台数は1,921台と再度大きく落ち込んだ。同措置が8月も継続するなか、2021年通年の販売台数への影響が懸念される。なお、MAAは2021年の新車販売台数目標を当初の57万台から、50万台に下方修正している。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

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