1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 新型コロナ禍で観光業は(エジプト)

新型コロナ禍で観光業は(エジプト)
観光従事者優先接種、チャーター便誘致などの取り組み進む

2021年9月24日

エジプトの主要外貨収入源と言えば、石油・天然ガス、スエズ運河の通航料、在外労働者からの送金に加え、観光だ。2019年のGDPに占める観光関連産業の割合は約12%、観光関連の労働者は全体の約10%、海外からの観光客数は1,300万人以上、観光収入は130億ドルだった(2021年5月17日付ビジネス短信参照)。

ところが、そのエジプトに新型コロナ禍が襲う。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、その影響により、2020年のGDP割合は3.8%まで落ち込んだ。観光関連従事者は、前年比35%減の157万人。労働者全体に占める構成比も6.2%まで低下した。2020年第2四半期には新型コロナウイルス感染が拡大し、国際線停止。これが、観光収入大幅減につながった(図1参照)。その他、ピラミッドをはじめとする観光施設の閉鎖、ホテルの客室の稼働制限、夜間外出制限、飲食店の営業停止などの措置は、観光業に大きな影響を与えた。

第3四半期以降は、政府が経済活動の制限を徐々に解除。特に国際線運航と観光施設営業を7月1日に再開してからは、観光収入が徐々に回復している。

ハーラ・サイード計画・経済開発相は、2021年の観光収入を60億ドルと見込む。2020年からは増加にせよ、2019年の約5割にとどまる見通しだ。

図1:エジプト観光収入推移(億ドル)
エジプトの観光収入の推移について、2019年から2020年第1四半期までは各四半期につき、20億ドルから40億ドル程度の収入であった。2020年第2四半期に3.1億ドルまで急激に落ち込んだものの、2020年第3四半期以降は徐々に回復傾向にある。

出所:エジプト中央銀行よりジェトロ作成

新型コロナ禍前は観光産業が回復傾向

海外からの観光客数は、2010年の1,473万人が過去最高だった。日本人渡航者数が過去最高の12万6,000人を記録したのも、この年だった。しかし、翌2011年に「アラブの春」が起きると、観光客数は98万人まで激減。その後も、テロや航空機墜落などの事件・事故により、増減を繰り返した。

ただし、最近は徐々に回復の兆しを見せ、政府は2020年には、「アラブの春」以前まで回復するという見方を示していた。 実際、2020年3月に新型コロナ感染症が拡大する前の観光客数は、1月が94万人、2月が94万人とわずか2カ月で188万人を超えていた。前年比では8%増。旅行会社によると、2019年秋以降からはホテルやナイル川クルーズが人気で予約が取りづらく、「アラブの春」以降の観光低迷から脱したとの声もあった。

新型コロナ禍は、そうした本格的な観光業の回復が見えた矢先のことだった。保健・人口省は2020年2月14日、エジプト初の新型コロナウイルス陽性者を確認したと発表した。3月6日には、アスワン発ルクソール行のナイル川クルーズ船でクラスターが発生した(45人の陽性者を確認)。この件は、日本でも大きく取り上げられた。旅行会社によると、日本からの旅行キャンセルは2020年2月から徐々に増えていった。ナイル川クルーズ船でのクラスター発生報道移行は、ほとんどがキャンセル。3月19日の国際航空便の運航停止が決定打で、すべてキャンセルになったという。世界全体の観光客数は2月まで順調に伸びていたところ、3月には前年同月比65%減。緊急退避便を除く国際便が原則停止となった4~6月は、合計でわずか7,000人にまで激減した(図2参照)。

図2:海外からの渡航者数(単位:万人)
エジプトの海外からの渡航者数は、2010年に過去最大となったものの、以降は「アラブの春」、モルシ政権崩壊、ロシア機墜落などにより、アップダウンを繰り返した。2019年に渡航者は2010年以降初めて、1,300万人まで回復したが、新型コロナの影響により、2020年は急激な落ち込みを見せた。

出所:世界銀行、考古・観光省よりジェトロ作成

約3カ月間の国際線停止、再開後に観光振興策

エジプト政府は2020年3月9日、感染予防対策として、大規模な集会の一時中止を発表した。14日には、すべての学校・大学へ休校を指示。16日には、国際航空便の運航停止を発表した(この運航停止は6月30日まで延長)。この発表時点で、エジプトでの新型コロナ新規感染者数は180人だった。その他、観光施設の閉鎖、ホテルの客室の稼働制限、夜間外出制限、飲食店の営業停止などの措置も講じられた。


外出規制時の街並み、ショッピングモール(ジェトロ撮影)

約3カ月間の国際線停止後、7月1日に国際線を再開した。再開にあたり、観光誘致のため様々な政策を矢継ぎ早に打ち出した。

まずは新型コロナ感染症対策として、考古・観光省の「エジプトへの観光再開に関する規則(Regulations for the Resumption of Tourism to EGYPT)」が発効。ここでは、航空機、遺跡および博物館、ホテル、レストラン、観光アクティビティーなどにおいて、ホテル1部屋あたりの宿泊人数、寝具類の取り換えや清掃方法、バスの乗車人数、グループの最大人数やレストランの食事提供方法などが詳細に規定された。また、規定に合格したホテルやレストランには証明書を発行。観光地やホテルでの消毒やマスク着用の義務化なども進めた。

こうしたエジプトの新型コロナ感染症対策は、世界旅行ツーリズム協議会が安全な旅行先の指針として始めた旅行安全認証(Safe Travel)の承認を受け、衛生面で一定の評価を得た。その他、チャーター便で訪れた観光客のビザ料金の免除や観光施設入場料の一部割引、チャーター機の駐留コストの減額などの策が講じられた。


一部の観光施設では、消毒液噴霧機(奥)と
テロ対策用の金属探知機(手前)を設置
(ジェトロ撮影)

観光地では衛生対策喚起のポスターを掲載
(ジェトロ撮影)

観光地で、新型コロナワクチンを優先接種

エジプトでのワクチン接種は、2021年1月から始まった。8月16日現在で、ワクチン接種完了者数は215万7,904人。人口比2.1%と低迷するとはいえ、観光復興のため紅海沿いなどの観光従事者に優先接種を行ってきた。6月3日には、保健・人口省が南シナイ県および紅海沿いの観光従事者全員が、ワクチン接種を完了したと公表した。

全国で、400以上の接種会場が設置されている。中でもカイロのナセルシティにある会場は、中東・北アフリカ地域の中でも大規模で、1日1万人の接種が可能だ。会場には96のブースを設置、各ブースにはスタッフが3人配置されている。(1)1人目の事務スタッフが接種番号などを確認し、(2)2人目の医師が問診をしたのちワクチンの種類を決定、(3)3人目の看護師が接種する、流れになる。この全工程で所要5分程度だ。

ハラ・ザイ―ド保健・人口相によると、現時点でシノファーム製、シノバック製、アストラゼネカ製、スプートニクV製、ジョンソン&ジョンソン製のワクチンが認可されている。ワクチン調達の契約は完了している一方、到着が滞っているのが実情だ。ファイザー製とモデルナ製のワクチンも、9月到着予定とされている。


ナセルシティのワクチン接種会場(旅行会社提供)

チャーター便やナイルクルーズが再開

政府は観光復興のため、各国からのチャーター便誘致を積極的に働きかけた。特にロシアからのチャーター便が実現したことは、特筆に値する。2021年8月に、約6年ぶりにモスクワから紅海沿いのハルガダへの直行便が再開した。8月27日からは、モスクワとハルガダ、および、モスクワと紅海沿いのシャルム・エル・シェイクとの間で毎週60便が発着している。

紅海沿いとの直行便を結ぶ便でロシア人224人が亡くなった墜落事故(2015年10月)以降、ロシア政府はエジプトへの直行便を全面停止していた。2018年4月にカイロ発着が再開されたものの、紅海沿岸の発着は見送られていた。エジプトのエルシーシ大統領は、「アラブの春」以降に悪化していた治安を改善することを目標に掲げている。その一環で、観光地では警察や軍が厳重な警備。また、監視カメラや金属探知機が設置され、持ち物のセキュリティチェックや車両チェックなど対策を強化してきた。これらの取り組みにより治安が改善したことも、直行便復活の背景にある。

ロシア人観光客は2014年に310万人が訪れていた。当年の全観光客数の33%に当たる。米国ゴールドマン・サックスによると、紅海都市へのロシア直行便の復活により、エジプトは30億ドルの収入が見込めるとした。

シャルム・エル・シェイクの旅行会社は「シャルム・エル・シェイクは、ほぼ新型コロナ禍前の状態にまで戻ってきた。ほぼすべてのホテルが営業を開始し、土産物屋やレストランも観光客でにぎわっている。国籍としては、もちろんロシアが一番多い。このほか主なところでは、ポーランド、アルメニア、ウクライナやアラブ諸国となる。観光に従事している我々は完全にワクチン接種を済ませた。観光客の方々にこの地域が安全だと感じていただいていると思う」と述べる。なお、2021年夏時点で、エジプトの全観光客数の65%が紅海沿岸リゾート地を訪れている。また、ホテルの稼働率は35~40%までに戻っている。さらに、紅海沿いや地中海沿いなど海沿いのリゾートには、夏には国内からも人々が集まるためにぎわいを見せている。


にぎわうスーク(市場)のお土産店
(ジェトロ撮影)

にぎわう紅海沿いシャルムエルシェイク
(ジェトロ撮影)

南部地域やカイロの観光業回復は鈍い

一方で、エジプト南部のアスワンやルクソール、首都カイロを訪れた観光客は、観光客全体の約35%だ。紅海沿いの観光地に比べると、観光客の戻りが鈍い。政府は、紅海沿岸部と同様にルクソールの観光従事者に対し、8月までにワクチン接種を完了する予定を示すなど、普及に力を入れる。さらに、7月31日には、約1年半ぶりにスペインとフランスからのチャーター便が、ルクソールに到着した。また、8月からは、ルクソールとアスワン間でナイル川クルーズ船が数十隻運行している。欧州などから、観光客が少しずつではあるが、戻り始めているようだ。

世界旅行ツーリズム協議会によると、2020年のエジプトへの渡航者の国籍は、ドイツ14%、サウジアラビア9%、リビア6%、イタリア5%、ポーランド4%の順に多かった。今後、ロシアやフランス、スペインなどの観光客も増加する可能性がある。日本とエジプトの直行便については、2013年にエジプト航空が「アラブの春」以降の観光客減少により、定期直行便を休止していた。その後、2017年10月に定期直行便が再開された。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で再び休止となり、再開見通しが立っていない。

旅行会社によると、カイロではアラブ諸国や東欧、米国からなどの観光客が少しずつ戻り始め、ホテル、レストラン、土産物屋も営業を開始したところが多い。ただ、紅海沿岸部に比べると客足の戻りは遅い。レストランや土産物屋によっては新型コロナ禍前の10%程度で、店の維持費にも満たないという。

新型コロナ後を見据えてホテルや観光施設などの建設も

新型コロナ禍にあっても、エジプトでは、将来を見据えてのホテル建設が続いている。建設中の54軒のホテル(1万6,693部屋)の多くがカイロ、紅海沿いのハルガダ、シャルム・エル・シェイクに位置する。2021年に14軒(5,319部屋)、2022年に14軒(3,568部屋)、2023年に12軒(3,990部屋)の開業が予定されている。うち30軒が5つ星ホテルだ。さらに、新たな観光施設の建設・修復も進む。例えば、シャルム・エル・シェイク博物館、カイロ国際空港の博物館、カイロのバロン城、サッカラの階段ピラミッドの玄室などが既に開館済みだ。カルナック神殿とルクソール神殿をつなぐ1.7キロのスフィンクス参道のオープニングも、2021年後半に予定される。

新たな施設で最も注目を集めるのは、大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)だ。建設支援や遺物の修復などの技術支援を日本政府が講じる案件でもある。2005年に着工され、総工費約8億ドルをかけて建設中だ。単一文明を扱う博物館としては世界最大となる。ツタンカーメンコレクションを含む約5万点の文化遺産が展示される予定だ。開館は本来2021年後半の予定だった。現実には、新型コロナ感染拡大状態を確認しながら慎重に時期を見極めるとしている。2021年4月3日、エジプト考古学博物館から22体のファラオのミイラを国立エジプト文明博物館に移送する際に、大規模なパレードを実施した。ツタンカーメン王の黄金のマスクが、エジプト考古学博物館から大エジプト博物館に移送される際にもパレードが予定されている。国際的な観光PRとなる見込みだ。博物館や隣接する修復センターへの遺物の移送に関しては、輸送の専門家として日本通運なども携わっている。

大エジプト博物館を含む、ギザのピラミッドエリアの大規模整備も進む。整備完了後、観光客は、電気式シャトルバスを利用してエリア内を観光することになる。さらに地下鉄4号線により、渋滞が深刻化するカイロ中心部からピラミッドエリアへの交通事情の改善が見込まれる。ちなみに地下鉄4号線は、日本政府の支援を受け、三菱商事が建設するプロジェクトでもある。


ギザの3大ピラミッド(旅行会社提供)

観光業に影響はあるが、経済は成長継続の見通し

世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は、新型コロナ感染拡大は「100年に1度の公衆衛生危機」と発言。今後何十年にもわたり影響を及ぼすと発表した。一方で、ハーリッド・アナーニ考古・観光相は、2022年秋には、観光状況が新型コロナ禍前の水準に戻ると予測している。

これまで四半世紀にわたって、エジプトではテロ、革命、クーデターなどが続いた。これにあわせて、観光業は大きな打撃を受けてきた。同時に、そのたびに立ち直ってきた。太古からそびえるピラミットに代表される古代遺跡や、紅海沿いのリゾートが人々を引きつける。今後も観光客が途絶える可能性が少ないため、観光業は引き続きエジプトの主要産業の1つであり続けるだろう。

「アラブの春」により、エジプトは大きな混乱に見舞われた。しかし、エジプト人たちはすぐに町に戻り、清掃し、周囲の建物を修復し、日常生活に戻るのに時間はかからなかったという。新型コロナ感染拡大により、観光業、小売業、外食業などが大きな影響を受けたのは事実だ。しかし、感染拡大の第1波が落ち着き、外出制限が解かれると、街はにぎわいを取り戻した。第2波、第3波の際は、再び外出制限などが課された。それも徐々に解除され、日常生活に戻りつつある。2021年9月以降に第4波が到来する予測もあるため、経済や観光業の先を読み切ることは難しい。だとしても、エジプト経済はプラス成長が続いてきた。新型コロナ禍で各国経済がマイナス成長となる中、世界でもまれな国なのだ(2021年2月10日付地域・分析レポート「観光業に打撃も、高成長の予測」)。


にぎわうエジプト(ジェトロ撮影)
変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2021年9月27日)
(誤)図2:海外からの渡航者数(単位:百万人)
(正)図2:海外からの渡航者数(単位:万人)
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ