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責任ある企業行動がより求められる状況に(ラオス)
アジアのサプライチェーンにおける人権尊重の取り組みと課題(3)

2021年10月6日

ラオスで、企業に対して責任ある企業行動(Responsible Business Conduct、RBC)を求める動きが出てきた。これは国内外の影響を受けたもので、企業側も取り組みを開始している。質の高い投資を積極的に呼び込むためにも、ビジネスと人権の視点を取り入れた政府の環境整備や企業の取り組みが求められる。

本稿では、ラオスの日系企業の取り組みを含め、特に製造業と農林業におけるこれらの動きについて報告したい。

企業は責任ある行動がより一層求められる状況に

ラオスで近年、人権や環境問題など、ビジネスでRBCが徐々に求められ始めている。とりわけ、製造業や農業など、グローバルなサプライチェーンに組み込まれている産業で、取り組みが先行する。世界的な関心が高まる中、ラオスでも各企業が対応の初期段階に入ったかたちだ。

RBCは、労働雇用環境に関連する動きとしても捉えることができる。ちなみにラオスでは、国連が各国に呼びかける「ビジネスと人権に関する国連指導原則に基づく国家行動計画(NAP)」について、まだ具体的な策定の動きがない。しかし、現在、最終草案段階にある第9期社会経済開発5カ年計画(2021-2025年)では、持続可能な開発目標(SDGs)2030アジェンダの達成を最上位の実施方針に位置付けている。目標として質の高い経済成長とともに、職業訓練などの人材育成、失業率の低減、物質的・精神的な国民生活の向上、気候変動対策などの環境保全、ガバナンスの強化などの大目標を打ち出した。

このような中、ラオスで活動するあらゆる企業は、SDGsへの貢献の前提として、責任ある企業行動の実施が求められるようになってきたともいえる。また、世界的に環境・人権デューディリジェンス(注1)を義務化する動きが出ていることも無視できない。

輸出市場での人権認識の高まりが製造業で取り組みを牽引

製造業では、さまざまな国で児童労働や強制労働、差別、労働組合に加入する権利の制限、低賃金、過度の労働時間、労働安全衛生、環境などの問題が指摘されている。ラオスでもこれらの問題の一部が存在するという指摘がある(OECD投資政策レビュー:ラオス 2017年)。近年は、主要輸出品の輸入国側で人権に対する認識が強化されてきた。例えば、縫製品(注2)では、欧州議会が2021年3月、企業に環境・人権デューディリジェンス義務化を求めるイニシアティブレポートを賛成多数で可決(ILO)し、欧州委員会は法整備のための準備を進めている。その法案は、2021年秋ごろに公表する見通しだ(2021年6月10日付地域・分析レポート参照)。日本政府も2020年10月、ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)を策定した。

ラオスに進出する日系企業では、従来も企業コンプライアンスの順守に取り組んできた。一方で、一部企業では2015年ごろから、それに加えて社員の労働環境や、児童労働、賃金の支払い状況、社員寮の環境、工場内の安全衛生、健康診断、火災訓練の実施などのCSR監査(注3)が求められるケースが出ているという。中でも留意が必要なのが就労年齢という指摘がある。ラオスでは労働法上14 歳以上で就労可能なのに対し、国際的には15 歳未満で児童労働とされるためだ。また、労災と職業病を削減するための労働安全衛生(OSH)について、2019年2月25日付で労働安全衛生に関する政府令 (No.22/Gov)が発布(注4)。その結果、各工場で関連のトレーニングを実施するなど導入が進んできた。さらに、政府は職業上の安全と健康促進枠組み条約を批准する計画だ(2021年2月8日「ビエンチャン・タイムズ」紙)。

農林業セクターでの取り組みが先行

ラオスでは、人口の69%が農業に従事する(2019年第3回農業世帯調査)。そのような基幹産業に、2000年以降、大規模投資が相次いだ。外国直接投資としては中国やタイなどからが多く、国内企業による案件もある。また形態としては、天然ゴム、コーヒー、キャッサバ、バナナ、サトウキビなどのプランテーションが一般的だ。その結果、地域住民との土地紛争や農薬汚染、森林破壊など、負の影響が問題化した。企業による包括的な責任ある行動が比較的古くから求められてきたセクターといえる。

2018年10月、ASEANは世界食料安全保障委員会の「責任ある農業および食料システムのための原則」に従い、「食品・農業・林業への責任ある投資の促進に関するASEANガイドライン(1.18MB)」採択した。このガイドラインは、10項目((1)食料安全保障と栄養、(2)経済発展、(3)女性と若年者、(4)土地の権利、(5)自然資源、(6)テクノロジー、(7)気候、(8)法の支配とガバナンス、(9)影響評価と説明責任、(10)地域的アプローチ)で構成され、企業の行動原則が示された。これに対応するように、国際NGOが中心となって、計画投資省や農林省、国立大学らが参加するワーキンググループが立ち上げられた。その活動は、2018年の「ラオスへの社会的責任のある農業投資を計画するためのフィールドガイド」、2020年には「責任ある農業投資ハンドブック」として結実した。さらに、2021年にはラオス商工会議所と国際NGOが中国企業向けに「責任ある農林投資に関するガイドブック」を発行した。いずれも、

  • 自由・事前・情報に基づく同意を地域コミュニティーと得ること、
  • 情報開示と透明性を保つこと、
  • 住民の土地・漁業・森林・水資源の権利を尊重すること、
  • 社会開発へ貢献すること、
  • 地域の労働者を安全に雇用すること、
  • 製品の品質と安全性を管理すること、
  • 天然資源や環境を保全すること

など、包括的な対応を原則とする。

中でもコーヒー事業では、生産者と販売者の社会的責任に関する認識は比較的高いとする指摘がある〔ドイツ国際協力公社(GIZ)、ドイツ連邦地球科学天然資源研究所 (BGR)「ラオスでの企業による社会責任(Corporate Social Responsibility in Lao PDR)」(2.44MB)〕。これは、消費者側の要求や、主要輸出市場(欧州、米国、オーストラリア、日本)の要請が高いことが要因として挙げられる。その結果として、ほとんどの生産者がフェアトレード認証を含め、積極的にビジネスに組み込んでいる。

ラオスから日本へコーヒーを調達する日系企業は、サプライチェーンでの持続的な基本方針を策定しており、法令や人権順守、環境保全、公正取引、安全衛生などを確保し、問題が認められる場合には仕入れ先に改善を要求するという。また、農業事業を運営する日系企業では、2020年からは貧困対策や教育支援などSDGsに沿った中期計画を立て、業務に反映させる取り組みを開始した。これは、従前からのインフラやソフト面の地域社会への貢献に加えた取り組みだ。

投資政策に反映し、質の高い投資の誘致へ

サプライチェーン全体の環境・人権デューディリジェンス要請が高まってきたことに伴い、既述の通り在ラオスの日系企業でも徐々に高度な対応が必要になっている。これらは、企業にとって負担増となる側面が否めない。もっとも、取り組みを進める結果がビジネスチャンスにつながり得る。例えば、労働安全衛生対策は労働条件の改善につながり、労働者の離職率が低下する期待が持てる。また環境対策強化を含めた対応で、環境・社会規範のより良い工場から調達を優先する企業との取引の芽が生じ得るだろう。

ラオス政府にとっても同様だ。NAPの策定や投資誘致政策に「ビジネスと人権」の視点を導入することで、質の高い投資を積極的に呼び込むことが可能になるかもしれない。それが実現すると、第9期社会経済開発5カ年計画(2021-2025年)草案の中心に位置するSDGsの達成にも大きな役割を果たすこととなろう。


注1:
環境・人権デューディリジェンスとは、企業がサプライチェーンを含む事業活動に伴う環境や人権侵害リスクを把握し、予防や軽減策を講じること。
注2:
ラオスから輸出される縫製品のうち、79%がEU向け、9%が日本向け(2020年縫製工業協会統計)。
注3:
CSR監査は、サプライチェーンの管理状況を検証するために実施される。内部監査の形を取る場合と、第三者機関を介して実施される場合、双方が考えられる。
注4:
それまでは、労働法や社会保障法に規定があった。政府令 (No.22/Gov)に規定されたことにより、強化された。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員

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