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タイのBCG経済モデル、スマートファーミングやバイオ技術に商機
BOI・EEC・EECiが提供する投資機会とイノベーション連携

2021年6月29日

タイ投資委員会(BOI)、東部経済回廊(EEC)事務局、東部経済回廊イノベーション特区(EECi)事務局は6月1日、バイオ・循環型・グリーン経済(BCG)のビジネス機会と投資支援策に関するウェビナーを実施した。タイは農業・バイオ技術に強みがあり、BCG産業を将来的にタイの基幹産業に育てたい考えだ。BOIやEECはBCG関連投資に恩典を付与し、EECiは「バイオポリス」「フード・イノ・ポリス」といった技術開発プラットフォームを用意し、BCG産業に関連した技術革新を促進する。成功事例としてEEC地域のドリアン果樹園によるスマート農業などが紹介されている。

バイオ技術のベースとなる原料が豊富なタイ

今回のウェビナーは、デンマークとタイの友好関係樹立400周年を記念した大規模イベントの一環として開催された(注)。ドゥアンジャイ・アッサワジンタチットBOI長官は「タイは新型コロナウイルスによるマイナス影響を軽減しつつ、競争力を維持し、新たなビジネス機会を捉える必要がある」と述べた。タイは農業・バイオ技術に強みを持っており、「BCG経済モデルは、パンデミック後のタイ経済を回復へと導くための重要戦略である」とした。

また、BOIは、タイには以下のようなBCG産業における優位性があるとしている。

  • 世界有数の生物多様性の豊かさ
  • 競争力のある食品産業(世界13位の食品の純輸出国)
  • インドシナ半島の中心に位置する戦略的立地
  • 広範なインフラ開発投資によって強化された連結性
  • バイオ技術の基盤となる素材の豊富さ(コメ、キャッサバ、サトウキビ、アブラヤシなど多くの農作物の生産国であり、これらは先端技術を用いた加工を行うにあたって重要な原料となる。タイには様々な種類のバイオマスがあり、年間4,000万トンのバイオマスが未利用と試算されている)
  • 国家的な科学技術インフラの支援(タイランド・サイエンス・パーク、バイオポリスなど)

同長官によると、BCGは今後5年間でGDPの25%に相当する4兆3,000億バーツ(約15兆500億円、1バーツ=約3.5円)の付加価値を生み出し、タイの主要経済基盤になる見込みだという。BCG経済は、以下のようなビジネス機会を創出する。

  • 食品・農業:スマートファーミング、植物工場、貴重な産品の農業・養殖、健康食品・高付加価値なバイオ成分(栄養補助食品、有効成分、プロバイオティクス:健康に良い善玉菌、プレバイオティクス:善玉菌の働きを助ける成分など)、代替タンパク質(植物・昆虫・細胞由来) など。
  • エネルギー・材料・バイオケミカル:バイオマス・バイオリファイナリー発電、水素発電、環境配慮型化学物質・ポリマー、生分解性バイオプラスチックなど。
  • 医療・ウェルネス:遺伝子治療、ワクチン、バイオ後続品(バイオシミラー:特許が切れたバイオ医薬品)、医療機器、遠隔医療、タイハーブを含む生体材料の医薬品・医療製品、臨床研究など。
  • 廃棄物マネジメント・リサイクル(廃プラスチックのリサイクルを含む)

BOIによるBCG投資の恩典

BOIは、BCG産業に投資する投資家に魅力的なインセンティブを提供している。一般的にBOIは、税制優遇措置として法人所得税の減免措置を提供するとともに、外資100%出資の許可や土地所有の認可、経営者や専門家の労働許可証・ビザ発給などの非税制優遇措置も用意している。優遇措置は、事業・製品・サービス内容、立地、技術水準、サプライチェーン上の役割の重要性といった要素に基づいて決定される。 BOIは、タイが高度な技術を有することを望んでおり、投資家が高度な技術を持ち込めば、その分、法人税減免の期間が長くなる。中でも農業・バイオ技術を基盤とする産業は、より優先順位が高い。BOIは、技術開発(特にバイオ/デジタル/ナノ技術、先端材料など基幹技術の開発)を促進したいと考えており、技術開発事業は最大10年間の免税措置を受けることができる。

BOIの投資促進策は、上流から下流までのサプライチェーン全体に加え、バイオ技術を基盤とする産業を支えるインフラ投資も対象としている。研究開発、科学研究所、臨床研究、スマートファーミング・サービス、職業訓練センター、農産物中央取引所、冷蔵倉庫、バイオマス・バイオガスからの発電・配電などである。

なお、BOIは、新規参入や新規投資以外にも、既存事業の競争力を高めるための投資恩典も用意している。自動化の利用(機械自動化に向けたアップグレード)、デジタル技術の採用、代替エネルギー利用と環境への影響の低減、効率向上と持続可能な開発のための研究開発/先端技術設計への投資、国際的な持続可能性基準の実施など、生産性向上のためのインセンティブが用意されている。

EECが目指すグリーン・循環型経済

EEC事務局のラックサモン・アッターピット副事務局長は、EECによるBCG産業への投資促進に関して説明した。EECは、BCG関連投資の受け皿となる主要地域の1つ。EECにとって、BCG投資の促進は最優先事項であるという。EECは、バンコク首都圏からみて東部に広がるチョンブリ県、ラヨーン県、チャチュンサオ県の3県をまたがるエリアである。レムチャバン港をはじめ良好な物流インフラを有し、様々な都市・国との連結性が高く、デジタルインフラの整備も進んでいる。 EECはタイの未来を担う産業である12のターゲット産業(いわゆるS字型産業)に焦点を当てているが、多くの産業がグリーン・循環型経済に関係し、多くの相乗効果が見込まれる。

EECは2020年、ターゲット産業を「健康」「デジタル」「物流」の3つの特定テーマに「クラスター化」した。それぞれに含まれる分野は以下のとおり。

  • 健康クラスター:先進的な農業・バイオ技術、未来型の食品、医療と包括的ヘルスケア、高付加価値な医療ツーリズム、バイオ燃料とバイオケミカル
  • デジタル・クラスター:オートメーション、インテリジェント・エレクトロニクス、デジタル、防衛産業
  • 物流クラスター:航空・物流、次世代自動車

ラックサモン副事務局長によると、BCGでは特に、食品・農業、医療・健康、バイオエネルギー・バイオマテリアル・バイオケミカル、観光・クリエーティブ経済に焦点を当てており、EECの対象産業に置き換えると、健康・医療、低炭素産業・ビジネスというテーマで相互に関連する。

また、ラックサモン副事務局長によると、タイはパリ協定に加盟し、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を20~25%削減する必要があるが、その達成にあたってもBCGモデルの採用が注目される。EECでは、特に産業分野において二酸化炭素排出量がネット(正味)・ゼロの地域になることを目指しており、そのために支援している方策が以下である。

  • 産業部門における再生可能エネルギー発電量の割合を増やし、分散型発電システムをサポートするインフラ(スマートグリッド、マイクログリッド)を強化する。
  • EEC内の公共交通機関における電気自動車(EV)の割合を増やすことで、エネルギー効率を向上させる。
  • 低炭素型生産への移行、産業廃棄物管理モデルの構築、再利用・リサイクル事業への投資恩典付与などにより、資源・廃棄物マネジメントを強化する。
  • グリーン・循環型経済の国際基準(ISO14021、14024、14025)に基づく生産を促進する。
  • EEC内でのカーボン取引システムを確立する。

EEC内で現在取り組まれているグリーン・循環型経済プロジェクトの例としては、ラヨーン県での廃棄物管理プロジェクトや、パタヤ市での廃棄物エネルギー・プラントなどが挙げられる。また、バンチャン・スマートシティ開発(バンチャン地区での50メガワットの太陽光発電、EV輸送をサポートする都市開発、充電ステーション整備、EV認証のための規制サンドボックスの構築) もグリーン事業の1つだ。

ラックサモン副事務局長は「既にEEC内で操業している工場においても、生産に必要なエネルギー使用量の改善や資源利用効率の向上などにより、グリーン・循環型に関する目標やネット・ゼロを達成する上での機会がたくさんある」と強調した。新規投資については、特に循環型経済、資源マネジメントシステム、生産ラインでのエネルギー・材料の使用量を削減するための特殊材料や化学物質などのソリューション・技術提供者が歓迎される。また、EECは規制サンドボックス地区である点も強み。グリーン・循環型産業を目指す製造業がイノベーティブな開発を行うため、規則・規制の改善をEECエリア内で行うことが可能である。

5つの技術プラットフォームで技術革新をリード

東部経済回廊イノベーション特区(EECi)のジャネクリシュナ・カナタラナ事務局長は「EECiはEECの一部として、EECにおける産業変革、労働力不足、高齢化社会、持続可能な開発など、将来の成長に向けた課題に取り組んでいる」と述べた。EECiは、東南アジアを代表するイノベーション・エコシステムであり、タイ国内における研究・イノベーションと投資をつなぐイノベーション・ハブとして位置づけられているという。

EECiも、バイオ産業やスマート経済といった産業への投資を支援している。タイ国内の大学・研究機関、サイエンス・パーク、技術開発者と連携し、対象産業への投資を促進したり、試験プラント、テストベッド、サンドボックスなどの重要インフラをプラットフォームとして提供したりして、研究成果のスケールアップ、技術の現地化、技術的・経済的な実現可能性調査を支援する。

EECiは、技術プラットフォームを5つ開発する予定で、バイオ技術を支援する「バイオポリス」のほか、自動化、ロボット、インテリジェント・エレクトロニクス産業をサポートする「ARIポリス」、現代的な食品産業をサポートする「フード・イノ・ポリス」、航空・宇宙産業をサポートする「スペース・イノ・ポリス」、そして、バイオと非バイオの両方の新素材開発を支援する「シンクロトロン」がある。

バイオ産業の振興に向けて、農業はタイの基幹産業の1つと考えられている。EECiは、植物の新たな品種候補のスクリーニングやエリート品種の選別を可能にするインフラや、グリーンハウス・露地の両方で化学物質や肥料の使用を抑えた栽培を可能にするインフラなどに投資し、現代的農業を支援する。また、EECiは、バイオリファイナリー産業の発展も支援する。ハーブやバイオマスを機能性成分や生化学・バイオマテリアルに変換していく能力も開発していく。

また、「多目的バイオリファイナリー試験プラント」を開設する計画もあり、タイと欧州の合弁事業として運営され、数年後に竣工(しゅんこう)する予定である。

スマート農業技術を用いた成功例も

EECiはスマート農業について、地域コミュニティとの連携にも力を入れている。2021年には、地元のパートナーとともにスマート農業デモサイトを3カ所設置する。デモサイトの目的は、(1)オープン・フィールドでの橋渡し研究(基礎研究の成果を実際の医療に活用するための研究:トランスレーショナル・リサーチ)の場、(2)技術移転の場、そして(3)すべての関係者が活動を共有し、学習を支援する場、としての機能が期待されている。

例えば、EECiは、ラヨーン県のドリアン果樹園を経営するソンブーン氏外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます と共同事業を行っている。同事業では、スマート農業技術と同氏の地元に密着した知恵を組み合わせ、(1)高値で取引されるオフシーズンのドリアンの生産能力向上、(2)水の使用量削減、(3)労働力削減、という3つの目標を立て、3年間ですべてが達成された。水の使用量は1日当たり1,000リットルから90リットルへと削減された。30エーカー(約12万平方メートル)の果樹園を1人で管理できるようになり、労働力を最小限に抑えられるようになった。現在では、同氏が他の果樹園の所有者にスマート農業技術の使用を実演し、技術を広めている。


ドリアン果樹園でのスマートファーミング(画像出所:EECiウェブサイト)

同様に、EECiは、スマート農業技術を水産業、特にエビ養殖にも応用している。これまでの成果として、1日の無駄な排水量を10~30%から0%に近い数字にすることができている。

EECiは国際的な企業・研究機関と、タイ関係者との間での共同研究・イノベーションを模索していきたいと考えている。地域の生物資源や生物多様性を活用した高付加価値製品の開発につながるパートナーシップに特に関心があるという。また、タイやASEANの産業界のニーズに応える先端技術の現地化につながるパートナーシップなども歓迎している。


注:
タイは、バイオ・循環型経済で先行するデンマークから事例を学びたいと考えている。タイのBCG経済の実現に向け、欧州企業にビジネス・投資機会を周知し、欧州企業との連携を期待している。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
シリンポーン・パックピンペット
通商政策や貿易制度などの調査を担当。

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