1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 2020年の自動車生産・販売・輸出は大きく減少(タイ)

2020年の自動車生産・販売・輸出は大きく減少(タイ)
新型コロナ禍の厳しい事業環境の一方、EV化とグリーン社会への動き進展

2021年8月17日

タイでは、2020年1月に新型コロナウイルスの国内感染が確認されて以降、徐々に感染が拡大。3月下旬には政府が非常事態宣言を発出し、夜間外出禁止や越境移動制限などの厳しい規制措置を敷いたことに加え、世界的な感染拡大による内外の市況低迷や、部品調達の停止・遅延などにより、日系自動車メーカーの多くが3月下旬から5月にかけて、工場の一時停止や減産措置を取った。その後も規制や市況の変化を注視しながらの操業が続き、5月以降は徐々に回復傾向を見せるも、2020年通年では、生産・輸出が前年比約30%減、国内販売が約20%減と、いずれも大きな減少幅となった。一方で、政府による自動車の電動(EV)化促進と環境規制の動き、中国メーカーなど新たなプレーヤーの事業展開が注目される年でもあった。

2020年の自動車生産、前年比29%減の143万台

タイ工業連盟(FTI)の発表によると、タイの2020年の自動車生産台数は、前年比29.1%減の142万6,970台(表1参照)。前年に続き2年連続のマイナスで、3年ぶりに200万台を割り込むかたちとなった(図1参照)。

FTIは2020年初、年間生産台数の見通しを200万台(輸出・国内向け各100万台)としていた。その後、新型コロナの感染拡大による生産活動への影響や内外の市況動向を踏まえ、3月には190万台、4月には140万台と予測を少しずつ引き下げていたが、最終的に140万台をわずかに上回る結果となった。

内訳は、輸出向けが32.1%減の70万4,626台、国内向けが26.0%減の72万2,344台。車種別では、乗用車が32.6%減の54万2,437台、商用車が26.9%減の88万4,533台と、いずれも大きな減少幅を見せた。

月ごとの生産台数を見ると、3月下旬に厳しい規制が導入された直後の4月に過去最大級の落ち込みを見せた後、5月以降は徐々に生産が回復し、年の終わりでは、何とか前年を上回る水準まで戻したかたちとなっている(図2参照)。

FTIは2021年の生産台数見通しについて、前年実績を踏まえ、国内向け、輸出向けともに75万台のトータル150万台(前年比5%増)との予測を示している。

表1:タイの自動車生産台数(2020年)(△はマイナス値)
項目 輸出向け 国内向け 合計
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 227,066 △34.8% 315,371 △30.9% 542,437 △32.6%
商用車 477,560 △30.7% 406,973 △21.8% 884,533 △26.9%
合計 704,626 △32.1% 722,344 △26.0% 1,426,970 △29.1%

出所:タイ工業連盟

図1:タイの自動車生産台数の推移(年別)
タイの2016年以降の年別の自動車生産台数は2016年から2019年は200万台前後を維持し、2018年には200万台を突破したが、2020年は150万台を割り込んだ。2021年は150万台が見込まれる。

注:2021年は見通し。
出所:タイ工業連盟

図2:タイの自動車生産台数(2020年月別)
2020年のタイの月別の自動車生産台数は1月は15万台を超えていたものが、4月には前年同月比80%超まで減少し、5万台を割り込んだ。その後は回復傾向となり、9月以降の生産台数は15万台前後まで回復し、11月、12月は前年同月比でプラスとなった。

出所:タイ工業連盟

2020年の自動車輸出、前年比30%減の74万台

FTIの発表によると、2020年の完成車の輸出台数は、前年比30.2%減の73万5,842台で、2年連続の前年割れとなった(図3参照)。輸出額で見ると、完成車は前年比24.7%減の4,109億バーツ(約1兆3,560億円、約1バーツ=約3.3円)。これに、エンジンや部品、スペアパーツを加えた自動車関連の輸出総額は前年比24.7%減の5,919億バーツとなった(表2参照)。

完成車の仕向け地別(出所:タイ国トヨタ自動車)では、前年比でアジア27.4%減、オセアニア29.0%減となったのに加え、欧州、北米向けは前年比50%弱の減少と、いずれも大きく落ち込んだ(表3参照)。

2021年は、グローバルマーケットが回復することを見込む予想もあるが、各国のコロナ感染拡大状況によって変動する可能性が高い。

図3:タイの自動車輸出台数の推移(年別)
タイの2016年以降の年別の自動車輸出台数は2016年から2019年までは100万台以上を維持していたが、2020年は80万台を割り込んだ。

出所:タイ工業連盟

表2:タイの自動車輸出額(2020年)(△はマイナス値)
項目 台数・金額 前年比
完成車・台数 735,842 △ 30.2%
完成車・金額 410,912 △ 24.7%
エンジン・金額 23,817 △ 25.6%
組み立て部品・金額 137,902 △ 25.0%
交換部品・金額 19,275 △ 20.1%
自動車輸出額合計 591,906 △ 24.7%

注:金額は100万バーツ。
出所:タイ工業連盟

表3:タイの地域別自動車輸出台数(2020年)(△はマイナス値)
地域 台数 前年比 シェア
アジア 231,338 △ 27.4% 31.4%
オセアニア 214,355 △ 29.0% 29.1%
中東 111,424 △ 15.8% 15.1%
欧州 60,371 △ 48.1% 8.2%
北米 40,101 △ 48.8% 5.4%
中南米 55,813 △ 26.5% 7.6%
アフリカ 20,361 △ 33.4% 2.8%
その他 2,079 1511.6% 0.3%
合計 735,842 △ 30.2% 100.0%

出所:タイ国トヨタ自動車

2021年の国内新車販売台数、前年比21.4%減の79万台

FTIの発表によると、2020年の国内の新車販売台数は、前年比21.4%減の79万2,146台で3年ぶりに100万台を割り込むかたちとなった(図4参照)。

車種別(出所:FTI・タイ国トヨタ自動車)では、乗用車が31.0%減の27万4,789台、商用車が15.1%減の51万7,357台となっており、このうち、タイでの主力製品のピックアップトラックは16.8%減の40万9,463台だった。日系メーカーは9社合計で20.5%減の69万7,336台だった(表4参照)。

多くの日系自動車メーカーでは、2021年は前年の落ち込みの反動でプラスが期待されるが、コロナ感染拡大前の水準に戻るにはさらなる時間を要するとの見通しを示している。

図4:タイの国内新車販売台数の推移
タイの2011年以降の年別の国内新車販売台数は2012年の140万台をピークに減少傾向となり、2015年には80万台を割り込んだ。その後は回復傾向となり、2018年と2019年は100万台超まで戻したが、2020年は再び80万台を割り込んだ。

出所:タイ工業連盟

表4:タイの新車販売台数(2020年)(△はマイナス値)
項目 台数 前年比
乗用車 274,789 △ 31.0%
商用車 517,357 △ 15.1%
(うちピックアップトラック) 409,463 △ 16.8%
合計 792,146 △ 21.4%
(うち日系メーカー) 697,336 △ 20.5%

出所:タイ工業連盟およびタイ国トヨタ自動車

排ガス規制「ユーロ5、6」導入時期を延期

タイ政府は、大都市を中心に近年深刻化するPM2.5問題への対応策の一環として、自動車排ガス規制「ユーロ5、6」を導入することにしており、2019年にこの適用開始時期を当初予定よりも2年前倒す方針を示していた(ユーロ5の適用開始を当初の2023年から2021年に前倒し、ユーロ6は翌2022年から適用)。

しかし、コロナ感染が進む中の新たな排ガス規制が産業界に与える影響に考慮するかたちで、7月に国家環境委員会(NEB)は、ユーロ5の適用開始を2024年、ユーロ6の適用開始を2025年と、それぞれ3年ずつ後ろ倒しする方針を示した。

本件に関してはこれまで、自動車業界は、ユーロ5、6に適合する国内の燃料供給体制が整っていない中、拙速な導入は避けるべきとの意見も出していた。今回の適用時期延期を受け、時間的猶予はできたが、業界全体での環境対応の強化が引き続き求められることとなろう。

政府がEV化政策推進

各国で近年、自動車の電動(EV)化推進に向けた取り組みが進行する中、ASEANの自動車生産・輸出のハブであるタイでも、政府が中心となってEV化促進政策の検討が進んでいる。政府は2016年3月に「EVアクショプラン(2016~2036)」を公表。この中で、2036年までに電気自動車(EV)とプラグインハイブリット車(PHV)の国内普及台数を120万台とする目標を打ち出した。また、同年に発表した産業高度化ビジョン「タイランド4.0」でも、10分野のターゲット産業の1つに「次世代自動車」を掲げ、タイ投資委員会(BOI)によるEV製造などへの各種投資恩典制度を設けた。

その後、EV化のさらなる推進に向け、2020年2月にソムキット副首相(当時)を議長とし関連省庁(工業省、エネルギー省、運輸省など)の代表などで構成する「国家電気自動車政策委員会(NEVPC)」が発足。翌3月の初会合では、5年以内にタイがASEANのEV生産のハブになることを目標にさらなる投資優遇策などの検討を進める方針を示し、併せて、2025年までに国内のEV生産を25万台、2030年には国内の自動車生産(250万台)の30%に当たる75万台をEVにするとの目標を設定した。

同年7月にはソムキット副首相が辞任したことにより、新たに入閣したスパタナポン副首相兼エネルギー相がNEVPC議長となり、引き続きEV化推進に向けた各種政策の検討が進行している。

国内EV市場はいまだ小規模だが、着実に成長

国内のEV市場の現状を見ると、タイ運輸省陸運局の発表では、2020年の国内のxEV(電気自動車全般)の新規登録は前年比13.4%増の3万875台。内訳は、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHV)の合計が前年比11.4%増の2万9,467台、バッテリーEV(BEV)が80.3%増の1,408台となっている。2016年比ではxEV全体で3倍以上増加し、2020年までのxEVの累積登録台数も2016年時点と比べて約2.3倍となっており、徐々にではあるが、確実な増加傾向を示している(図5、6参照)。

ただ、2020年の国内の新車販売台数(約79万台)とxEVの新規登録数を比べると、xEV全体でも約4%、BEV単独では約0.2%と市場シェアはまだ極めて小さく、市場を牽引する大きな流れにはなり得ていない状況だ。

図5:タイの電気自動車新規登録台数の推移(年別)
タイの2016年以降の年別の電気自動車の新規登録台数は年々増加している。特に、ハイブリットおよびプラグインハイブリットの登録が多く、2020年には3万台弱となった。バッテリーEVの登録台数も年々増加しているが、ハイブリットおよびプラグインハイブリットに比べれば少ない。

出所:タイ運輸省陸運局

図6:タイの電気自動車累積登録台数の推移(年別)
タイの2016年以降の年別の電気自動車の累計登録台数は年々増加している。特に、ハイブリットおよびプラグインハイブリットが多く、2020年には累計18万台弱となった。バッテリーEVの累計登の録台数も年々増加しているが、ハイブリットおよびプラグインハイブリットに比べれば少ない。

出所:タイ運輸省陸運局

自動車市場に新たなプレーヤー参入

タイの自動車市場は、引き続き日系メーカーが生産・販売の9割近くを占めているが、近年、EV市場などを中心に新たなプレーヤーが参入。

日系では、川崎市に本社を持つEVベンチャーの「FOMM」が2019年から小型BEVの生産を、また、大田区の高野自動車用品製作所の子会社「タカノ・オート・タイランド」が2020年から小型EVピックアップトラックの生産をそれぞれ開始した。

なお、複数の日系大手自動車メーカーも既にBEV生産に関するBOIの投資恩典の承認を受けており、2023年ごろからの生産開始が見込まれている。

中国勢では、上海汽車とCPグループ(タイ最大の財閥)との合弁企業「SAICモーター-CP」(2014年からMGブランドでタイで生産販売開始)が近年、低価格のBEVやタイ国産PHVでEV市場の存在感を高めており、併せて、充電ステーションの設置にも積極的に取り組んでいる。また、長城汽車(GWM)も2020年2月にラヨーン県のGM工場を買収。最新設備による工場のスマート化を図って、2021年中にHVを含む複数モデルの生産を開始するとし、2023年以降にはBEVの生産開始も予定している。

さらに、タイの現地資本でも、バイオ燃焼・再生可能エネルギーの企業だった「エナジーアブソルート」が2019年から独自開発のBEVの販売を開始するとともに、充電ステーションやバッテリー製造にも乗り出している。

今後、タイのEV市場は車両製造のみならず、充電施設やバッテリー製造などの周辺分野を含めたかたちで、各国のさまざまなプレーヤーの参入・競争が見込まれる。

長引く市況回復、グリーン政策と相まって進むEV化

2021年の生産・輸出を含むタイの自動車市況は、前年の反動による一定レベルの回復が期待されるが、引き続き内外の新型コロナの感染状況に大きく左右されるとみられ、感染拡大前のレベルに戻るにはまだ長い時間を要する、というのが多くの自動車関係者の一致した見方となっている。

一方、EV化の促進は、タイランド4.0で示された産業高度化戦略だけでなく、2021年1月にプラユット首相が新たに国家戦略モデルに据えた「BCG(バイオ・サーキュラー・グリーン)経済」の文脈でも重要視されており、今後、環境・エネルギー問題ともリンクするかたちで、EV普及に向けた投資・税制恩典などの検討がさらに進んでいくものと思われる。 しかし、自動車業界の中には、急速なEV化にかじを切ることに懸念の声もあり、既存の自動車サプライチェーンへの影響回避や、電源インフラの整備、電源構成(高い化石燃料発電の割合)の見直しなども考慮に入れた慎重かつ現実的な政策の検討を求める声も多い。ASEANの自動車生産・輸出ハブとしてのタイのプレゼンス維持と産業高度化・グリーン政策をいかに両立させていくか、官民の議論が今後さらに活発化していくものと思われる。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 次長
五十嵐 淳志(いがらし あつし)
2019年から、ジェトロ・バンコク事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
小関 真人(おぜき まさと)
2020年から、ジェトロ・バンコク事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
パシット・アンスパイツーン
2014年から、ジェトロ・バンコク事務所勤務。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ